農業の始まりは、種をまく瞬間から始まります。
ただの種をまくという作業に複雑な要素はないと思われがちですが、土の物理性や野菜の品目を考慮するとさまざまな要素が絡んできます。
今回は、発芽に必要な条件と播種の方法について詳しく説明していきます。
種まきは単純作業ですが、今後の栽培設計に関わっている重要な作業です。しっかり学んでいきましょう。
発芽に必要な要素
発芽には以下の条件が整っている必要があります。
- 水:種子は適切に吸水する必要があります。水は種子内部の化学反応を開始し、生育のエネルギー源となります。
- 温度:適切な温度範囲が必要です。異なる作物には異なる最適温度があります。
- 酸素:種子は酸素を必要とし、土壌中に酸素が充分に含まれている必要があります。
発芽後、植物は葉を展開し、光合成を行うことで独立した生育活動を始めます。
これには種子に蓄えられた栄養が利用されます。発芽が難しい作物では、催芽処理が行われます。
催芽処理には水浸漬、低温/高温処理、温浴処理、ホルモン剤処理(オーキシン、ジベレリンなど)、浴光処理など、さまざまな方法があります。
2. 播種の方法
専門的に種蒔きのことを播種と呼びます。
「播種(はしゅ)」=「種蒔き」です。
適切な種子を選ぶことはもちろん大事ですが、各作物の発芽特性に合わせて適切な環境、蒔き方を考えることも重要です。
発芽までの流れは二通りあります。
- 直播き:種子を直接野菜にまく方法です。この方法は、作物の管理が比較的容易な場合や栽培のサイクルが短い作物を育てる場合に適しています。(例:ムギ、ソバ、牧草など)。
- 育苗:種子を育苗箱などで育て、苗を畑に植える方法です。育苗の後、苗を畑に植えること(定植)で成長度合いを揃えることができます。
播き方も作物の性質に合わせて選択されます。
- ばら播き:多量の種子をちらけるようにまき、その後間引きを行います。管理が比較的手間いらない方法で、草丈の高い作物に適しています。例としては、小松菜、水菜などの葉菜類や収穫までのサイクルが早いものに使われる播き方です。
- 点播き:1~数粒ずつを株間をあけてまく方法で、茎葉が繁茂しやすい作物に適しています。例としては、ダイコンやハクサイ、カブなどに使われる播き方です。
- すじ播き(条播き):一定の間隔ですじ状にまく方法で、管理がしやすく、中耕・除草・追肥などの作業が行いやすいです。例としては、人参や小麦に使われる播き方となります。
専門的に以下の言葉に言い換えられることもあります。
- 散播(さんは) = ばら蒔き
- 点播(てんぱ) = 点蒔き
- 条播(じょうは) = すじ蒔き
「覆土」、「鎮圧」について
どの播種方法を選んでも、種子をまく前に適切な深さにまいたら機士をかける(覆土)、軽く押さえる(鎮圧)という作業をする必要があります。
こららの「覆土」、「鎮圧」といった作業は一般論として以下の理由によって行われます。
- タネには嫌光性といって、明るいところより薄暗い環境のほうが発芽には適しているものが多い為。
- 雨や水やりなどで種が流れてしまうのを防ぐ為。
- 小鳥や虫、ナメクジなどによる食害を防ぐ為。
- 毛細管現象で種子の周りに水が保たれやすくし、土壌の乾燥を防ぐ為。
覆土した部分(土の表面)を少し押さえ、鎮圧をかけることで、土の粒子が密集し、毛細管現象による「毛管水」が上がってきて、種の乾燥を防ぐことができます。
鎮圧というのは、土壌の表面の保水性を良くする作業です。
土の粒子間を狭くし、密集させることで毛細管現象を引き起こし、土壌の深い部分にある水が土壌の表面に向かって上がってくることで、土壌の表面に水が保たれやすくなります。逆に水はけを良くしたい場合は鎮圧を少し抑えめでやる方が好ましいです。
土の粒子と粒子の間のほんのわずかの隙間に、空気と水が含まれています。その隙間が小さすぎると、毛細管現象で水が飽和状態になり、空気が含まれなくなってしまい、逆に大きすぎても水はけがよすぎて、空気ばかりで水が含まれない土になってしまいます。
そのため鎮圧する力は土の細かさや吸水性などのさまざまな要素を見極めて加減することが重要です。
どのような土であっても、雨や水やりなどで種が流れてしまうので鎮圧は必要になります。
おわりに
農業における播種は、成功の第一歩です。適切な発芽条件と播種方法を調べて実行していきましょう。
自分が農業を始めて思ったことは、「農業の教科書」というのが昔に出版されたものしかなく、「なぜその作業がされるのか」といった理論的な説明が書かれている本がほとんどないということです。
農業の教科書は10年前からあまり変更(改訂)されておらず、最新の情報が書いてあるものは多くありません。この記事では、農業を始めようとする方の参考になるように、また自分の勉強の復習として書いています。
農業は未だに理論化や体系化が不完全な未知の領域です。本や記事を積極的に読むだけでなく、経験を積んだり他の人の意見を聞いたりすることで、幅広い知識を身につけることが重要です。
一つの情報源に過度に依存せず、多角的な視点を持つことが大切です。
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