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【化成肥料危険は嘘?】なぜ農業で化成肥料が広く使われるのか?有機肥料を使うときの注意点と化成肥料のメリットと安全性について

農業において、作物の健康的な成長と高い収穫量を実現するためには、適切な栄養補給が欠かせません。

その栄養補給の手段として肥料を与えることが挙げられます。肥料は、植物の成長に必要な栄養素を供給する役割を果たしてくれます。

実際に使われる肥料としては「化成肥料」と「有機肥料」がありますが、農家の間では、化成肥料が広く使用されています。

では、「なぜ有機肥料ではなく、化成肥料が農家の間で広く使われているのでしょうか?」、「有機肥料はなぜ使用されないのでしょうか?」

本記事では、化成肥料に焦点を当て、その特徴、メリット、デメリットについて詳しく説明します。

目次

肥料を使用する目的

まず肥料を使用する目的は植物に必要な栄養素である「窒素(N)」、「リン(P)」、「カリウム(K)」の他、「マグネシウム(Mg)」、「カルシウム(Ca)」といった栄養素を補充することです。

補充する栄養素や量は、「植物の可食部位はどこか」、「どこを育てれば良いか」を考えて決めていきます。

肥料の種類

肥料には大きく分けて「有機肥料」と「化成肥料」の二種類があります。

有機肥料が油粕や魚粉など有機物を発酵させて作った肥料であるのに対し、化成肥料は鉱物などの無機質を原料にした肥料です。

化成肥料は「化学肥料」とも呼ばれます。「化学」という言葉で悪いイメージを持つ人もいますが、化成肥料の原料は自然由来です。

「化学肥料=悪いイメージ」と思われがちですが、化学肥料の原料は自然由来のもの。 人工的に成分を合成し配合しているだけです。

どちらも自然界に一般的に存在する物質でできていますが、化成肥料の場合は化学的に合成して作られるために化成肥料と呼ばれています。

なんでもそうですが、「化学」という言葉にそこまで敏感にならなくても大丈夫です。

有機肥料と化成肥料の大きな違い

有機肥料と化成肥料の大きな違いは「土壌中に有機質を補充するか」です。

作物が育ちやすい土壌にするためには、土壌の中に適切な量の微生物や菌などを保持し、活発に活動させることで土を柔らかくしたり(物理性の改善)、特定の菌だけが増えないようにして植物が病気になりにくいようにする必要があります。

土の中の有機質が少なくなると土中の微生物のバランスが崩れ、病気の原因となる菌が増えてしまうことがあるので、有機質を土壌に補充しなければなりません。

有機肥料は土壌に有機質を補充し、土中の微生物のバランスの改善を果たしてくれます。

しかし、化成肥料は有機質を含まず、有機質を土壌に補充できません。

そのため化成肥料だけを与えていると土の中の有機質が少なくなり、微生物のバランスが崩れることで、物理性の改善ができず土がカチカチになったり、病気の原因となる菌が増えてしまったりします。

しかし、有機質肥料も肥料に含まれている有機質の量や割合を間違えると、同様のことが起こる可能性があります。そういった場合は腐葉土や堆肥などの有機質資材で有機質を補充していかなければなりません。

有機肥料による土壌の悪化

有機質を入れれば、微生物を増やし、土壌の改善ができるため「有機質をたくさん与えればいいのか」といえば、そうではありません。土中の有機質が多いという状態は、虫、微生物、菌などが過剰にいる状態です。虫、微生物、菌などが多い状態は植物がすぐに食べられる、病気になりやすい、カビが生えやすいことにつながります。特定の菌どころか、不特定の微生物や菌が数多く存在する土壌は有機質が少ない土壌より厄介な状態です。有機質が少ないなら補充すれば済む話ですが、逆に有機質が多い場合は対処法があまりありません。有機肥料は栄養成分が低い分、入れすぎてしまうことがあるので注意が必要です。

化成肥料とは

化成肥料は、鉱物などの無機質な原料を使用して製造される肥料の一種です。

化成肥料には、主に植物に必要な栄養素である「窒素」、「カリウム」、「リン」の他「マグネシウム」、「カルシウム」などが含まれています。

化成肥料は、有機肥料とは異なり、有機質を土壌に補充することはできませんが、その正確な栄養成分と効果のタイミング管理が特長です。

化成肥料のメリット

  1. 栄養成分の正確な管理: 化成肥料は、栄養成分の配合を調整しやすく、特定の成分を重点的に供給できます。これにより、特定の栄養要件に合わせたカスタマイズが可能となります。
  2. 効果のタイミング管理: 化成肥料には、速効性肥料から遅効性肥料までさまざまな種類があり、肥料の効果が発現するタイミングを調整できます。これは、植物の成長段階や特定のニーズに合わせて肥料の投与を行う際に非常に役立ちます。
  3. 多様な形状: 化成肥料は粒状、粉末状、タブレット状、液体状など、使いやすい形状で提供されます。農家は自分の好みやニーズに合わせて選択できます。

化成肥料のデメリット

  1. 有機質の補充不可: 化成肥料は有機質を供給できないため、土壌中の有機物のバランスを維持するのには不向きです。これにより、土壌の質を維持するために別途有機肥料が必要となることがあります。そのため一般的に化成肥料は有機資材と組み合わせて使用されます。
  2. 栄養成分の過多:化成肥料は有機肥料に比べ成分の濃度が高く、少ない量でも効果が大きいため与える量が過多になってしまうことがあります。

基本的に化成肥料のデメリットは「有機質を補充できない」という点です。

土壌の生物的改良効果は低いですが、成分量、効くタイミング、形状を設定できるため、化成肥料は作業効率を格段に上げるメリットの多い肥料となります。

化成肥料の種類

化成肥料には、植物の生育に必要な成分をバランスよく含む「普通化成(オール8)」と、特定の栄養成分を高濃度で供給する「単肥」の2つの主要な種類があります。

  • 普通化成(オール8): パッケージなどに「8-8-8」といった表記がある化成肥料です。窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)の3つの栄養成分が一定量含まれており、バランス良く植物を生育できます。そのため初心者でも扱いやすい肥料となります。安定した成果が期待できますが、単肥よりコストがやや高く、与えたい成分以外の成分のコストが無駄に感じたり、必要ない成分が植物の生育の邪魔になったりすることがあります。
  • 単肥: 単肥は特定の栄養成分のみを高濃度で含む肥料です。ほとんどは速効性で、必要な成分を素早く供給でき、また高濃度のため少ない量で効率よく作物を育てることができます。20キロ買った場合、「普通化成(オール8)」より500〜1000円ほど「単肥」の方が安く、成分量も高いためお得です。大量生産する場合はコスト面で単肥を選ぶことが多くなります。しかし、特定の成分だけ高く含まれているため、肥料の与えすぎ、成分の過多(肥料やけ)にならないようにしっかり計算して与える必要があります。

「8-8-8」といった表記の意味

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「8」と言う数字は肥料に含まれている窒素(N)」、「リン酸(P)」、「カリウム」のそれぞれの成分の割合を示しています。

「8-8-8」の場合は、その肥料の正味重量に対して、窒素(N)が8%、リン酸(P)が8%、カリウム(K)が8%、それぞれ含まれているということになります。

ここで一点注意が必要な点として、「kg(キログラム)」ではなく、「%(パーセント)」で表記されるということを覚えておきましょう。

[8-8-8]の成分の計算方法:「N-P-K:8-8-8」の肥料10kgを散布する場合、「10kg×0.08(8%)=0.8kg」で窒素・リン酸・カリウムがそれぞれを0.8kgずつ補給することになります。

「14-14-14」といった表記の意味

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また「14-14-14」と言う表記もあり、数字が大きく記載されている場合があります。

「14-14-14」の場合は、その肥料の正味重量に対して、窒素(N)が14%、リン酸(P)が14%、カリウム(K)が14%、それぞれ含まれているということになります。

[14-14-14]の成分の計算方法:「N-P-K:14-14-14」の肥料10kgを散布する場合、「10kg×0.14(14%)=1.4kg」で窒素・リン酸・カリウムがそれぞれを1.4kgずつ補給することになります

「8-8-8」の表記と全く同じ考え方なので「8-8-8」の意味がわかっていれば大丈夫です。

ちなみに、「14-14-14」の化成肥料は、窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)の含有率の合計が30%を超えるため、高度化成肥料と呼ばれます。

14-14-14」の化成肥料は、「8-8-8」の肥料より少ない量でも済むため施用量を抑えられ、搬送・運搬、散布作業の手間が軽減されます。

そのため、生産するためのコストや作業時間を削減し、効率化したいと考える農家にとって、高度化成肥料はメリットが多いです。

しかし、「8-8-8」の肥料より1回分の体積が小さくなるため広範囲に均一に散布するなどの用途には不向きとなります。よって少ない量でも均一に正確に散布できる高精度の肥料散布機などが必要になります。


化成肥料の代名詞「硫安」について

化成肥料の中で最も利用されるのは「硫酸アンモニウム(硫安)」と言うものです。

「硫安」は「単肥」に分類され、窒素(N)を多く含んだ肥料で、「窒素肥料」とも言われます。

窒素(N)だけ含まれており、窒素分:20%の水に溶けて早く効く速効性の肥料です。

植物の生育に必要な主成分である「窒素(N)」、「リン(P)」、「カリウム(K)」のなかで窒素(N)は特に重要で多くの量が必要な栄養素です。

そのため窒素(N)を多く含んだ単肥の「硫安」は必然的に需要が高くなります。

この肥料としての「硫安(単肥)」は「普通化成(オール8)」に比べて、窒素分の成分量が多く、20キロ買った場合、「普通化成(オール8)」より値段が500〜1000円ほど安くなります。

窒素分だけを見ると「8-8-8(オール8)」の肥料より約2.5倍ほど多く窒素が含まれているためお得でコスト面で「硫安」は重宝されます。「硫安」は大量に作物を育てる(少品種大量生産)の農家さんの間で広く利用されています。

化成肥料が危険だと言う誤解について

原始的な有機肥料の利用を除けば、有機肥料も化成肥料は年数としては同じくらいの歴史を持っています。作業効率の良さで言えば、化成肥料が圧倒的ですが、健康的に育った作物の精度や危険性としては化成肥料も有機肥料もほとんど同じです。

肥料の危険性というのは大体は「入れすぎ」によるものであり、化成肥料が危険だと言われるのは成分が高濃度のため少量でいいのに関わらず、有機肥料と同じ量を入れてしまったということがあるからです。

よく化成肥料の危険性を示すものとして「硝酸態窒素」と言う言葉が使用されます。

実際この「硝酸態窒素」は体内で亜硝酸態窒素に変化すると、発がん性があるとされており、危険性を感じさせる要素の一つです。

しかし、この硝酸態窒素は野菜の生育に必要なものでほとんど全ての野菜に含まれており、どの農法を取っても野菜には必ず含まれています。そのため「硝酸態窒素」自体を恐れる必要はありません。

硝酸態窒素とは

植物の生育に必要な「窒素」。窒素自体は空気中にも土中にも存在していますが、そのままでは植物が栄養分として直接吸収できません。植物は「アンモニア態窒素」や「硝酸態窒素」になった状態の窒素を吸収します。その中の「硝酸態窒素」は野菜の生育に必要な要素です。自然界では、土壌中に含まれる尿素や有機態窒素が微生物による分解などによって酸化していき、アンモニア態窒素→亜硝酸態窒素→硝酸態窒素と変化します。

「硝酸態窒素」は自然界の植物にも含まれているものでもあり、「硝酸態窒素」がなければ植物は育ちません。また「硝酸態窒素」の発がん性は影響がかなり小さいものです。一般消費者は過剰な摂取をしない限りは硝酸態窒素を過度に恐れる必要はありません。野菜は重要な栄養源です。硝酸態窒素栄養のことよりはバランスを考えた食事を摂ることを心がけるようにすることの方が影響は大きいです。

問題なのは「硝酸態窒素の量」です。

「硝酸態窒素」は窒素が多い土壌で育った野菜に多く含まれるため肥料の与えすぎで成分過多になってしまった土壌が問題になります。

化成肥料の危険が指摘されたのは、使用量を少しでも誤っただけで化成肥料は成分過多になりやすいからだと考えられます。

実際、化成肥料はしっかり使用量、必要な成分量をしっかり計算し、与えることで硝酸態窒素は有機肥料で育ったものとほとんど変わらなくなります。

有機肥料において、硝酸態窒素が問題にならない理由は、有機肥料が生物によって分解される過程で、植物が利用できる栄養素が徐々に土壌に溶け出していくため、過剰な肥料が土壌に供給されにくいからです。ただし、有機肥料も過剰に与えると硝酸態窒素の量が増加し、測定器で高い数値が検出されることがあります。

速効性の多い化成肥料に比べてあまり問題にならないだけで、有機肥料も過剰に使用すると、肥料過多による問題や肥料焼けが発生する可能性があります。また、硝酸態窒素が過剰に供給されると、苦味が強く、危険性の高い野菜が生産されることがあります。

もし化成肥料を使う時は、成分過多にならないよう緩効性と速効性の肥料を使い分けたり、しっかり使用量を計算することが大事になります。

硝酸態窒素が多いと…

硝酸態窒素はえぐみや苦味のもとなのでもあり、硝酸態窒素を多く含んでいる野菜は美味しくなく、硝酸態窒素による発がん性が高くなるので、いいことはありません。

硝酸態窒素の過剰な施肥は、野菜類だけでなく、農地から硝酸態窒素が流出し、地下水や河川水への影響を及ぼす可能性があります。これにより、近隣の池や沼の硝酸窒素濃度が上昇し、生態系に悪影響を及ぼす可能性もあるばかりか、地下水や河川水が飲料水源として利用されることも考えられます。

野菜の味も悪くなりますし、我々の健康、環境配慮も光量して肥料の過剰施肥は避ける必要があります。

硝酸態窒素についての詳しい説明はこちらの記事がおすすめ↓

出典:BASF「硝酸態窒素とは?窒素肥料が野菜類にもたらす効果と、知っておきたい注意点」

参照:https://minorasu.basf.co.jp/80255

なぜ化成肥料が使われるのか?

安定供給をし、大量生産を行う農業では化成肥料が利用されています。それは有機肥料は使い勝手が悪いからです。

現状、有機肥料は成分量にばらつきがあったり、1gに含まれる成分量が少ないためたくさんの量をまかないといけなかったりして使い勝手が悪いため、安定供給を目指す小品目大量生産の農業には向いていません。そういった理由で化成肥料は重宝されます。

有機肥料のメリットとして、化成肥料は生物性の改善ができない一方、有機肥料は有機質を補充し、土中の微生物などのバランスを整えるといった生物性の改善ができます。生物性の土壌の改善として有機肥料は多いに役に立ちます。

ですが、化成肥料は狙った成分を供給できるほか、緩効性と速効性というように肥料の効くタイミングを調整したり、形状を選べたりする点で計算がしやすいなどで作業効率の面で大きなメリットがあるため小品目大量生産の農業では、まだ化成肥料が広く利用されると考えられます。

自給用であれば有機肥料でも十分なため、よく「有機肥料でも育つのになぜ化成肥料を使うんだ!」という意見がありますが、個人で経営できるほどの面積と大量生産をしないといけない現場では勝手が違うため比較することはできないと考えられます。

なぜ有機肥料が注目されているか

しかし、年号が令和に変わる頃ぐらいから農業界では、有機肥料の利用を推進するような活動がありました。

その理由には、「化成肥料は危険だ」と言う誤解からの自然派の方からの要望、オーガニック商品の出現などが挙げられますが、一番の理由には「肥料の高騰化」が考えられます。

2021年からウクライナ侵攻により、世界有数の肥料輸出国からの輸出が停滞しました。

こういった社会情勢によって肥料の高騰化が起き、問題になりました。そういった危機感から化成肥料の利用を控える方針を考えたのかもしれません。

肥料の国産化について

農林水産省のデータ農林水産省「肥料をめぐる情勢(R5,5月調べ)」を見ると、

農林水産省「肥料をめぐる情勢(R5,5月調べ)」を

肥料の製造には原材料にかなりのコストがかかり、それらの原料はすべて輸入していることが問題視されています。

この問題を考慮すると、肥料の国産化が提案されますが、そのためにかかる費用と、国産化によってどれだけコストを削減できるかについての具体的な情報が不足しています。(あったら教えてください)

アダム・スミスの比較生産費説のように、肥料の国産化によって逆にコストが増加する可能性があるため、現状では国産化が行われていないと考えられます。


また、農林水産省が2021年(令和三年)5月に掲げた「みどりの食料システム戦略」のことを考えると、どういった理由が一番関わっているかはあまり分かりませんが、これからは化成肥料の利用を控え、有機肥料の利用を推奨する動きがあるのかもしれません。

農林水産省が2021年(令和三年)5月に掲げた「みどりの食料システム戦略」

おわりに

なぜ有機肥料ではなく、化成肥料が農家の間で広く使われているのか?」という問いに対する答えは、一般的に「化成肥料」は「有機肥料」に比べて使いやすく、作業効率が圧倒的に向上するからです。

「化学肥料に対して悪いイメージがあった」「化学合成物という言葉に良いイメージがなかった」という誤解を抱いている人もいるかもしれません。

農業に関してはまだ未知のことが多く、断言できることがありません。そのため情報量が少ないことっもあり、不安を誘うようなマイナスな情報だけが目に入るためすぐに批判したくなります。しかし、どうしてその方式が選ばれたのかは知識として知っておくことはとても大事なことです。とにかく否定せず、いろんな話を聞いてみることが必要です。

上記では化学肥料の安全性やメリットを紹介しました。しかし、化成肥料は輸入に頼っており、値段にかなり変動があります。今は、化成肥料のおかげで手間などが省け安定的に安く野菜が手に入りますが、社会情勢を見ると、有機肥料の利用も考慮に入れる必要があり、手間をかけてでも有機肥料を選んだ方が良い時代が来るかもしれません。農業には正解がありません。いろんな意見が飛び交うのが農業です。本記事の内容は事実に基づいていますが、これも一つの視点に過ぎません。読者の方々には参考程度に受け止めていただければ幸いです。


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